1. サービス産業の成長は、地域の均等な発展を意味しない
サービス産業が拡大しても、地方に仕事が生まれるとは限らない
2000年代初頭の日本経済では、製造業を中心とする従来型の産業構造が変化し、サービス産業の重要性が高まっていた。企業が情報システムの開発や広告、経営相談、建物の管理、人材の確保などを外部の専門企業に委ねるようになると、それらを担うサービス業にも新たな仕事が生まれる。企業活動を支えるサービスが独立した産業として発達することは、経済の高度化を示す変化の一つだった。
しかし、サービス産業が成長することと、その成長が全国各地に均等に広がることは別の問題である。むしろ企業向けサービスのなかには、東京を中心とする首都圏や、大阪、名古屋などの大都市に強く集中する業種がある。全国的に需要が増えていても、その仕事を引き受ける企業や専門人材が大都市に集まれば、雇用や売上の増加も特定地域に偏りやすい。
この問題を考えるうえで重要なのが、「対事業所サービス」という産業分野である。これは、一般の消費者に商品やサービスを直接提供するのではなく、企業や官公庁などの事業活動を支えるサービスを指す。情報サービス、広告、専門的な設計・調査、法律・会計関連の業務、人材派遣、ビルメンテナンス、警備など、幅広い仕事が含まれる。
例えば、地方の製造工場が設備を動かし、製品を生産していたとしても、その工場の情報システムを開発する企業、広告戦略を考える企業、専門的な設計を請け負う企業が東京に立地している場合がある。工場の所在地と、工場を支えるサービス企業の所在地は、必ずしも一致しないのである。
ここに、サービス経済化の見えにくい特徴がある。製造業の工場が地方に立地していても、企業活動から生まれる知識集約的な仕事や高付加価値の仕事は、大都市側に集まる可能性がある。地域経済を理解するには、工場や店舗がどこにあるかだけでなく、企業活動を支える機能がどこに配置されているかを見なければならない。
「中央集中」と「大都市集中」は同じではない
企業向けサービスの立地を考えるときには、首都圏への集中と、全国の大都市への集中を区別する必要がある。
首都圏への集中とは、東京とその周辺地域に事業所や従業者が集まる現象である。一方、大都市への集中とは、東京だけでなく、大阪、名古屋などの大都市にも仕事が集まることを意味する。ある業種が大都市型であっても、必ずしも東京一極集中型とは限らない。製造業の集積に合わせて、愛知県や神奈川県などに立地する専門サービスもあるからだ。
この違いは、産業の立地を左右する需要の性格を考えると理解しやすい。全国企業の本社や中央官庁との結び付きが強い業種は、東京への集中が進みやすい。反対に、工場や建設現場など、顧客の事業所が全国各地に分散している業種は、顧客の所在地に近い場所にも立地する理由がある。
したがって、企業向けサービスが大都市に集まる理由を、単純に「都市の方が便利だから」と説明することはできない。どのような顧客を相手にし、どのような人材や情報を必要とし、どの産業との取引が多いかによって、集中の度合いは変わるのである。
2. なぜ企業向けサービスは東京に集まるのか
大企業の本社と中央官庁が需要を生み出す
企業向けサービスが首都圏に集中する大きな理由の一つは、サービスを購入する側の企業や官公庁が東京に集まっていることにある。
情報システムの導入、広告戦略の立案、企業の調査・分析、専門的なコンサルティングなどは、単に作業を請け負うだけでは完結しないことが多い。顧客企業の経営方針を理解し、予算や事業計画を調整し、複数の部署や取引先と連絡を取りながら進める必要がある。そのため、顧客の本社に近い場所にサービス企業が立地することには、商談や意思決定を円滑に進めるという利点がある。
中央官庁との関係が深い業務でも、東京への集中が生じやすい。公共事業に関係する調査・設計や、国の政策に関わる専門的な仕事では、発注者との調整や情報収集が重要になるためだ。こうした業務では、顧客との距離が単なる地理的な問題ではなく、事業機会を得るための条件となる。
また、大企業の本社が集中すると、その周囲に法律事務所、会計事務所、広告会社、調査会社、情報システム企業などが集まる。専門サービスの集積がさらに企業を呼び込み、企業の集積がまた専門サービスの需要を増やす。こうして、需要と供給が互いを強める循環が生まれる。
専門人材と情報が集積をさらに強める
企業向けサービスのなかには、設備よりも人材の知識や経験が競争力を左右する業種がある。広告、映画制作、情報システム、研究開発、デザインなどがその代表例である。
こうした業種では、専門知識を持つ人材を採用できることに加え、異なる専門家と協力しやすいことが重要になる。例えば、映像制作の現場では、企画、脚本、撮影、編集、広告、配給など、さまざまな機能が結び付く。情報システムの開発でも、技術者だけでなく、営業担当者、顧客企業の担当者、機器メーカー、運用支援の専門家などが関わる。
専門家が集まる地域では、転職や共同事業がしやすくなり、新しい取引先を見つける機会も増える。企業にとっては、人材を採用しやすく、協力相手を見つけやすい場所に拠点を置くことが合理的な選択になる。その結果、既に集積している地域に企業がさらに集まり、地方の企業は人材確保や取引機会の面で不利になりやすい。
ここで注目したいのは、情報通信技術が発達すれば、企業向けサービスの立地が自動的に分散するわけではないという点である。情報を遠隔地に送ることができても、顧客との信頼関係、対面での調整、専門家同士の交流、仕事の紹介などが重要である限り、企業は集積地に立地する誘因を持ち続ける。
3. 数字が示す、企業向けサービスの集中
首都圏の従業者比率はサービス産業全体より高い
2001年の事業所統計を用いた分析では、サービス業全体の従業者に占める首都圏の割合は30.0%だった。これに対し、対事業所サービスでは38.2%に達している。つまり、サービス業全体と比べても、企業向けサービスの仕事は首都圏に偏っていた。
業種別に見ると、集中の強さはさらに明確になる。映画制作では首都圏の従業者比率が73.3%、情報サービスでは約6割、広告業でも5割を超えていた。学術研究機関も46.8%に達しており、研究機能にも首都圏集中の傾向が見られた。
これらの数字は、単に東京に事業所が多いということだけを示しているのではない。専門知識を使う仕事や、企業の意思決定に近い仕事、全国市場を対象とする仕事ほど、首都圏に集まりやすいことを示唆している。
一方、生活関連サービスや余暇関連サービスでは、首都圏の従業者比率はそれぞれ28.0%、23.8%にとどまっていた。洗濯、理容、浴場、宿泊、娯楽などのサービスは、住民の生活や観光客の需要に結び付いているため、企業向けサービスほど東京に集中しない。人々が暮らす場所、観光地、地域の人口規模に応じて、全国各地に立地する必要があるからだ。
この対比は、サービス産業を一括りにして「都市型産業」と捉えることの危うさを示している。サービス産業のなかには、人口に応じて広く分散するものもあれば、企業の本社や専門人材の集積を背景に中央へ集中するものもある。地域格差を分析するには、サービス産業の内部構造を見分けることが欠かせない。
1990年代の不況下でも集中は進んだ
さらに重要なのは、中央集中が好況期だけの現象ではなかったことである。1991年から2001年にかけて、日本経済はバブル崩壊後の長期不況を経験した。それにもかかわらず、情報サービス、広告、映画制作、学術研究機関などでは、首都圏の従業者比率が上昇していた。
例えば、映画制作の首都圏比率は1991年の65.5%から2001年には73.3%へ高まった。学術研究機関も42.0%から46.8%へ上昇している。その他事業サービスや専門サービスでも、首都圏の比率は上昇傾向を示した。
不況になると企業は経費を削減するが、外部の専門企業に業務を委託する動きが続けば、企業向けサービスの需要が直ちに消えるとは限らない。また、全国規模の企業活動や専門的な情報処理に関わる仕事は、顧客企業の本社や既存の専門人材の集積地と結び付いている。こうした条件が、不況期にも中央集中を支える要因になったと考えられる。
ここから読み取れるのは、景気が回復すれば地方にも自然に仕事が広がるとは限らないということだ。企業向けサービスの立地には、景気循環だけではなく、顧客の配置、専門人材の集積、企業間ネットワークなど、長期的に作用する構造的な要因がある。
4. 情報サービス業に見る、メーカー主導の産業構造
ソフトウェア産業は、独立した企業だけで成長したわけではない
企業向けサービスの中央集中を理解するうえで、とりわけ重要なのが情報サービス業である。コンピューターやソフトウェアは、製造業から金融業、流通業、行政まで、幅広い産業の活動を支えるようになった。情報化が進めば、情報サービス業は全国各地に広がっていくようにも思える。しかし、日本で情報サービス産業が発展してきた経緯をたどると、そこには大手電機メーカーを中心とする産業構造があった。
2000年代初頭までの日本では、ソフトウェアの開発能力を蓄積し、業界を主導してきたのは、情報サービス業に分類される独立系企業だけではなかった。コンピューター事業を手掛ける大手電機メーカーが、自社のソフトウェア部門を通じて開発を担い、外部の情報サービス企業に一部の業務を発注するという関係が重要だった。
つまり、情報サービス業は、独立した市場のなかで自律的に成長しただけではなく、電機メーカーの事業活動と外注需要に強く結び付いていたのである。情報サービス企業がどこに立地するかを考えるには、ソフトウェアを開発する企業だけでなく、その仕事を発注するメーカーや、メーカーの研究開発拠点がどこにあるのかを調べる必要がある。
この点は、製造業とサービス産業の関係を考えるうえでも示唆的である。製造業の成長がサービス業の発展を促すことは確かだが、その利益が地域に均等に行き渡るとは限らない。製造業の中核企業が特定地域に集中し、その企業が発注する高度なサービスも同じ地域に集まれば、製造業とサービス業の双方で地域格差が強まる可能性がある。
東京と神奈川への集中を生み出したもの
情報サービス業の集中には、東京に企業の本社が集まっていることに加えて、神奈川県に電機メーカーのコンピューター工場や関連するソフトウェア開発拠点が立地していたことも関係していた。
情報サービス業の仕事は、必ずしも顧客の本社だけで行われるわけではない。ハードウェアの開発・製造拠点、技術者が働く場所、顧客企業との連携拠点など、複数の立地条件が重なって産業の集積が生まれる。東京と神奈川は、企業の意思決定機能と技術開発機能が結び付く地域として、情報サービス業にとって重要な場所になっていた。
基本ソフトウェアの開発も、その一例である。基本ソフトウェアとは、コンピューターの動作を支える基盤的なソフトウェアであり、代表的なものにOS(オペレーティングシステム)がある。こうしたソフトウェアの開発には高度な技術力が求められ、ハードウェアとの密接な連携も必要になる。著者が参照した2002年の統計では、基本ソフトの売上高の約79%を東京・神奈川が占めていた。
この数字からは、情報化が進んでも、技術開発の中心が自動的に全国へ分散するわけではなかったことがうかがえる。通信によって情報をやり取りできることと、開発機能をどこに配置するかは別の問題なのである。
情報化が地方を結び付ける一方で、中央への依存も強める
情報通信技術には、地方の企業が遠隔地の顧客と取引し、都市部に行かなくても高度な仕事を受注できる可能性がある。しかし、その可能性が実現するかどうかは、通信環境だけでは決まらない。
地方企業が高度な情報サービスを提供するには、技術者の確保、開発実績の蓄積、顧客からの信用、継続的な受注経路が必要になる。これらを既に備えた企業が大都市に集まっている場合、新たに参入する地方企業は、技術力だけでなく営業や人材採用でも競争しなければならない。
また、地方の企業が情報システムを導入しても、その開発や保守を大都市の企業に委託するのであれば、情報化の恩恵は受けられても、専門的な雇用や収益の一部は地域外に流れる。情報化は地方の生産性を高める手段になる一方で、中央に集積した専門サービスへの依存を強める可能性も持っている。
この二面性は、現代のデジタル経済を考えるうえでも重要である。オンライン会議やクラウドサービスが普及しても、地域の企業が高付加価値の仕事を獲得し、専門人材を育成する仕組みまで自動的に生まれるわけではない。技術を利用する能力と、技術を開発・提供して利益を生み出す能力は、区別して考える必要がある。
5. 企業向けサービスの立地は、顧客産業との関係で決まる
機械修理業と物品賃貸業では、顧客の分布が異なる
企業向けサービスのなかでも、すべての業種が同じように東京へ集中するわけではない。顧客となる産業がどこに立地しているかによって、サービス企業の配置も変わる。
機械修理業は、工場の設備や業務用機械などを修理・保守する仕事を担う。2000年の産業連関表に基づく分析では、機械修理業の販売先のうち製造業が36%を占めていたほか、情報サービス・物品賃貸、電力・ガス・水道、建設なども主要な顧客だった。
製造業の工場は大都市中心部だけでなく、地方の工業地域にも立地している。そのため、機械修理業にも地方に拠点を置く理由がある。しかし、機械修理業の顧客には、情報サービスや物品賃貸など、大都市に集まりやすい業種も含まれる。このため、修理業自体も一定の大都市集中を示していた。
これに対して、機器を貸し出す物品賃貸業では、製造業や建設業など、地方にも広く立地する産業が顧客になる。また、地域の金融機関などを背景に地方のリース会社が設立されてきたことも、立地の分散につながったと考えられる。
同じ企業向けサービスでも、どのような顧客と取引しているかによって、地域への広がり方は異なる。産業の立地は、その業種単独の事情だけで決まるのではなく、取引先との関係を通じて形成されるのである。
専門サービスや人材派遣も、顧客の集積に影響される
法律・会計・税務、デザイン、土木建築サービスなどの専門サービスも、企業の集積と深く結び付いている。企業が多い地域では、契約、税務、会計、設計、広告などの専門的な需要が生まれやすい。大企業や官公庁を顧客とする仕事では、受注や打ち合わせの機会が多い大都市に立地する利点も大きい。
ただし、専門サービスのなかでも、顧客の配置によって集中の度合いは違う。デザイン業は東京や大阪などの大都市に集まりやすい一方、機械設計業は製造業の立地との結び付きが強く、愛知県、神奈川県、静岡県など、製造業が集積する地域にも広がっていた。専門性が高い仕事であっても、顧客の工場や開発拠点と連携する必要がある場合には、全国の産業集積に沿って分散するのである。
人材派遣業も、顧客産業との関係が重要である。情報サービス、金融・保険、通信などを主要な顧客とする場合、それらの企業が集まる地域で派遣需要も生まれやすい。建物管理やビルメンテナンスは、病院、官公庁、不動産、商業施設などを顧客とするため、大都市で需要が大きくなる傾向がある。警備業も、不動産、金融機関、公共施設などの立地に影響される。
このように、企業向けサービスの中央集中は、サービス業だけを見ても理解できない。サービスを購入する産業の構造、企業の本社や工場の配置、行政機関の立地などを一体として考えることが必要である。
6. 生活関連サービスや余暇関連サービスは、なぜ分散するのか
住民の日常生活に結び付くサービス
企業向けサービスが大都市に集まりやすいのに対して、洗濯、理容、浴場、駐車場などの生活関連サービスは、住民が暮らす場所に立地する必要がある。顧客が日常的に利用するサービスであるため、人口の分布が店舗や事業所の配置に強く影響する。
2001年の統計では、生活関連サービスの従業者は約173万人で、人口1万人当たりでは全国平均136人だった。都道府県ごとの格差は、企業向けサービスと比べると小さかった。ただし、東京都や大阪府など、昼間人口が大きく増える地域では、通勤・通学者や買い物客の需要によって、一定の集中も見られた。
ここで重要なのは、サービス業の立地を左右する人口が、夜間にその地域で暮らす人口だけではないという点である。昼間に通勤者や買い物客が流入する地域では、飲食、駐車場、理容などの需要が増える。反対に、住民が多くても昼間には人口が流出する地域では、地域内でのサービス需要が相対的に小さくなることがある。
生活関連サービスは人口に応じて分散する傾向があるが、人口の数だけでなく、日中の人の動きや都市の機能も立地に影響しているのである。
観光地や娯楽施設が生み出す地域特性
余暇関連サービスには、宿泊業や娯楽業などが含まれる。これらは人口に比例して立地するだけではなく、観光資源や大型の娯楽施設の有無によって地域差が生まれる。
宿泊業は、首都圏や大都市に集中するとは限らない。観光地、温泉地、景勝地などを抱える地域では、人口規模が大きくなくても宿泊需要が生まれる。著者が参照した統計では、石川、福井、山梨、長野、静岡、鳥取、大分、沖縄など、観光地を有する県で人口1万人当たりの宿泊業従業者が比較的多かった。
娯楽業についても、地域の特性が立地を左右する。パチンコ店などは人口規模に応じて立地する傾向がある一方、ゴルフ場は大都市周辺に集まりやすい。また、大型の遊園地やテーマパークを持つ地域では、娯楽業の雇用が増えやすい。
こうした業種では、サービスを提供する場所そのものが観光資源や娯楽施設と結び付いている。企業向けサービスのように、本社や専門人材の集積が立地を決めるのではなく、地域にある資源が顧客を呼び込み、雇用を生み出すのである。
したがって、地域のサービス産業を振興する場合も、全国一律の政策だけでは十分ではない。企業向けサービスの育成を目指す地域と、観光や生活サービスを伸ばす地域とでは、必要となる条件が異なる。産業の性格に応じて、地域の強みを見極める必要がある。
7. 中央集中が地方経済にもたらす影響
地方に工場があっても、専門的な仕事が地域に残るとは限らない
企業向けサービスの中央集中が進むと、地方の製造業や建設業が生み出す需要の一部が、地域外のサービス企業に向かうことになる。地方の工場が情報システムを導入し、東京の企業に開発を依頼すれば、工場の生産性は向上する。しかし、システム開発に関わる雇用や売上が、すべて工場のある地域に生まれるわけではない。
この問題は、地域経済の発展を考える際に重要である。地域に工場や事業所が存在することと、地域内に高付加価値の仕事が蓄積されることは同じではない。設計、研究開発、広告、情報システム、経営支援などの機能が地域外に置かれていれば、地域内で生み出された収益の一部は、地域外の企業や専門人材に帰属する。
また、専門的なサービス企業が地方に少ないと、地元企業が高度な業務を外部に委託せざるを得なくなる場合もある。地域にサービス企業が育たないために需要が地域外へ流れ、その結果、地元企業の成長機会や専門人材の雇用がさらに限られるという循環が生じる可能性がある。
もちろん、すべての業務を地域内で完結させることが望ましいわけではない。高度な専門サービスは、全国規模の市場で競争し、広い範囲の顧客に提供することで成長する場合もある。重要なのは、地域外との取引を一律に問題視することではなく、地域内にどのような能力や雇用が蓄積され、地域の企業がどれほど主体的に成長できるかを考えることである。
地方のサービス産業振興には、産業構造への理解が必要になる
企業向けサービスの中央集中を是正するには、地方に事業所を誘致するだけでは十分ではない。サービス企業が地方に立地しても、顧客が少なければ、継続的な受注や人材の確保は難しい。逆に、地域内に製造業や公共機関などの顧客が存在しても、サービス企業が育っていなければ、需要は地域外へ流れやすい。
必要なのは、地域の企業がどのようなサービスを必要としているのかを把握し、その需要と地域の供給能力を結び付けることである。例えば、製造業が集積する地域では、機械設計、設備保守、情報システム、技術支援などが地域内で発展する可能性がある。地域の医療・福祉施設が多い場所では、施設管理、給食、洗濯、情報システムなどの需要を基盤に、関連するサービス企業が成長する余地がある。
さらに、専門人材を育成する教育機関や、企業間の取引を促す仕組みも欠かせない。企業が立地するだけでなく、専門知識を持つ人材が地域で働き続けられ、企業が継続的に仕事を獲得できる環境を整えることが重要になる。
地方経済の活性化は、工場を誘致することだけでも、サービス業の事業所数を増やすことだけでも実現しない。地域内の産業同士が取引し、専門的な仕事が地域に蓄積され、得られた所得が地域の消費や投資に結び付く仕組みが必要なのである。
8. サービス経済化の歴史的意味――産業の成長と地域格差は同時に進む
サービス産業は、全国に広がる産業であると同時に、集中する産業でもある
2000年代初頭の日本では、サービス産業が雇用や企業活動を支える重要な存在になっていた。しかし、その成長の仕方は業種によって大きく異なっていた。生活関連サービスや宿泊業のように、人口や観光資源に応じて各地に立地する業種がある一方、情報サービス、広告、映画制作、研究開発などのように、大都市や首都圏に集中する業種もあった。
この違いを理解するうえで大切なのは、サービス産業を一つのまとまりとして扱わないことである。「サービス産業が伸びている」という事実だけでは、どの地域に仕事が生まれ、どのような職業が増え、地域経済にどの程度の利益が残るのかは分からない。産業の内部にある機能や顧客との関係を分析する必要がある。
企業向けサービスの中央集中は、サービス経済化が進むほど地域格差が自然に解消するわけではないことを示している。知識や情報を扱う仕事が増えても、その仕事を担う企業と人材が大都市に集まれば、地域間の差はむしろ拡大することがある。経済の高度化は、産業の構成を変えるだけでなく、仕事がどこに配置されるかという地域構造も変えていくのである。
地域政策では、雇用の量だけでなく仕事の内容にも目を向ける
地域経済を評価するとき、雇用者数や事業所数は重要な指標である。しかし、それだけでは十分ではない。地域にどのような仕事が存在するのか、その仕事が専門的な能力を育てるのか、地域内の企業と取引するのか、継続的な所得や投資を生み出すのかといった点も重要になる。
例えば、地方の企業が単純な作業だけを担い、企画、設計、研究開発、経営判断などの機能を地域外に依存している場合、雇用が存在しても、地域内に蓄積される能力は限定される可能性がある。反対に、地域に専門サービスの企業が育ち、地元企業の技術開発や経営改善を支えるようになれば、産業間の結び付きが強まり、地域経済の自立性が高まることも期待できる。
この視点は、製造業とサービス産業のどちらを重視するかという単純な二者択一を超えている。製造業を支えるサービスが地域内に育てば、製造業の競争力向上にもつながる。サービス産業の発展は、工場に代わる雇用をつくるだけでなく、地域のものづくりを支える能力を形成することにも意味がある。
情報化の時代にも残る、産業立地の構造的な問題
今日では、インターネット、クラウド、オンライン会議、人工知能などによって、遠隔地で仕事を進める条件が大きく改善している。しかし、技術の進歩だけで産業の中央集中が解消するとは限らない。顧客との関係、専門人材の集積、企業間ネットワーク、研究開発機能、受注機会の偏りなどが残っていれば、企業は引き続き大都市に立地する誘因を持つ。
一方で、デジタル技術は、地方企業が地域外の顧客を獲得し、専門的なサービスを提供する機会も広げている。問題は、技術が利用できるかどうかだけではなく、それを使って事業を展開できる人材、経営能力、顧客との接点を地域に形成できるかどうかである。
企業向けサービスの中央集中という問題は、東京への人口集中だけをめぐる議論ではない。それは、どこに企業の意思決定機能があり、どこで専門知識が生産され、どの地域に高付加価値の仕事が蓄積されるのかという、日本経済の構造そのものに関わる問題である。
サービス産業を全国に広げるためには、地域ごとの需要と産業構造を理解し、地域内で企業同士が結び付く条件を整える必要がある。産業の成長を地域の発展につなげるには、仕事の数を増やすだけでなく、仕事を生み出す機能や専門能力がどこに蓄積されるのかまで考えなければならない。
