1. サービス産業は、日本経済を内側から支えている
「サービス業が成長する」ということの本当の意味
サービス産業という言葉からは、飲食店、ホテル、美容室、娯楽施設など、私たちが日常的に利用する仕事が思い浮かぶかもしれません。しかし、日本経済におけるサービス産業の役割を理解するには、消費者に直接サービスを提供する仕事だけでなく、企業の活動を支える仕事にも目を向ける必要があります。
企業が製品を製造し、販売するためには、工場や店舗だけでなく、情報システム、輸送、広告、専門的な調査、機械の修理、建物の管理など、多様な機能が必要です。こうした機能の一部は、かつて企業内部の部署や従業員によって担われていました。しかし、専門化やコスト削減が進むにつれて、外部のサービス企業に委託される仕事が増えていきます。
例えば、製造業の企業が自社で情報システムを管理する代わりに、専門のIT企業にシステム開発や運用を任せたとします。製造業の側では情報システム部門の仕事が縮小する一方、IT企業では受注が増え、技術者や運用担当者の仕事が生まれます。経済活動そのものが消えたわけではなく、仕事を担う企業の境界が変わったのです。
このような企業向けのサービスは、一般に「対事業所サービス」と呼ばれます。情報サービス、広告、物品賃貸、機械修理、建物管理、人材派遣、専門的な調査や助言などが含まれます。対事業所サービスの発展は、サービス産業だけの問題ではありません。製造業、建設業、商業、金融業など、さまざまな産業の生産活動を支えるため、日本経済全体の競争力にも関わっています。
一方、医療、福祉、教育などの公共性の高いサービスは、企業のコスト削減だけでは説明できません。高齢化や生活上のニーズの変化に伴って必要性が高まり、政府や自治体の支出、社会保障制度、民間の事業活動などを通じて提供されます。
2000年代初頭の日本では、グローバル化によるコスト削減圧力が企業向けサービスの成長を促し、高齢化の進展が医療・福祉などの拡大を後押ししていました。成長する理由は異なりますが、どちらもサービス産業が日本経済の基盤を支える存在になっていたことを示しています。
産業は互いに支え合っている
経済を製造業、建設業、サービス産業などに分けて考えると、それぞれが独立して活動しているように見えます。しかし、実際には、ある産業が生み出した製品やサービスが別の産業の生産活動に使われています。
工場で製品をつくるには、電力、運輸、金融、情報システム、機械の保守などが必要です。病院を運営するには、医療機器、建物、通信設備、給食、清掃などが必要になります。学校や福祉施設も同様に、建設、設備、物品、情報技術などを利用しています。
つまり、サービス産業は、他の産業が生産活動を続けるために必要な機能を提供すると同時に、自らも他産業の製品や設備を購入しています。サービス産業が成長すれば、サービス企業の売上や雇用が増えるだけでなく、機械メーカーや建設会社などにも需要が波及する可能性があるのです。
この関係を具体的に捉えるために役立つのが「産業連関表」です。産業連関表は、一定期間に各産業がどれだけ生産し、他の産業から何を購入し、どこに製品やサービスを販売したかを整理した統計です。ある産業の生産活動が、他の産業の生産や需要とどのようにつながっているかを把握できます。
2000年の産業連関表を使ってサービス産業を分析すると、サービス産業の生産物が、家計による消費だけでなく、企業の生産活動や政府の支出、設備投資など、複数の経路を通じて利用されていたことがわかります。サービス産業の役割を理解するには、サービスを購入する人だけでなく、サービスが経済のなかでどのように使われているかを見る必要があります。
2. サービス産業は、誰に何を販売しているのか
2000年のサービス業の国内生産額は約219兆円
2000年の産業連関表によると、サービス業の国内生産額は約219.22兆円でした。その販売先を大きく分けると、企業などの生産活動に使われる中間需要が約78.24兆円、家計外消費が約13.04兆円、民間消費が約71.09兆円、政府消費が約49.70兆円、固定資本形成が約10.37兆円となっています。
この数字が示すのは、サービス産業が家庭向けの消費市場だけで成り立っているわけではないということです。企業の生産活動に利用されるサービスも大きな割合を占め、政府による教育・医療・福祉などへの支出も重要な販売先になっています。
2000年のサービス業の販売先
国内生産額 約219.22兆円を基準とした構成
中間需要(企業などの生産活動)
78.24兆円
35.7%
民間消費
71.09兆円
32.4%
政府消費
49.70兆円
22.7%
家計外消費
13.04兆円
6%
固定資本形成
10.37兆円
4.7%
出典:2000年「産業連関表」による分類。区分ごとの比率は丸められているため、合計は100%と一致しない場合があります。
ここでいう「中間需要」とは、企業などが自らの生産活動のために購入する財やサービスのことです。例えば、製造業が情報システムの運用を外部企業に委託したり、店舗運営会社が清掃や警備を専門業者に任せたりする場合、その購入は企業の生産活動を支える中間投入になります。
「民間消費」は、家計などによるサービスの購入を中心とします。飲食、娯楽、個人向けの各種サービスに加えて、統計上の分類では教育・医療・福祉に関連するサービスの一部も含まれます。「政府消費」は、政府が提供する教育、医療・福祉などの公共サービスを支える支出です。
「固定資本形成」は、建物や機械、設備、ソフトウェアなど、将来にわたって生産活動に使われる資産への投資を指します。サービス産業も設備を購入し、施設を整備し、情報システムを導入するため、こうした投資を通じて他の産業に需要を生み出します。
企業向けサービスは、企業の生産活動に深く組み込まれている
2000年の統計では、対事業所サービスの国内生産額は約76.25兆円で、そのうち約60.58兆円、すなわち約79%が中間投入に使われていました。これは、企業向けサービスの多くが、一般消費者に直接販売されるのではなく、他の企業や組織の活動を支えるために購入されていたことを意味します。
この構造は、企業向けサービスを理解するうえで重要です。例えば、企業が広告会社に宣伝を依頼すると、広告会社は報酬を得ます。しかし、広告会社の仕事はそこで完結するわけではありません。広告を通じて商品の認知度が高まり、販売が増えれば、製造業や卸売業、小売業などにも影響が及びます。
情報サービスも同様です。受注ソフトウェアの開発やシステム運用は、情報サービス企業の売上になると同時に、利用する企業の業務効率や生産能力にも影響します。専門サービスは、他の企業が自社だけでは十分に持てない知識や技術を利用できるようにする仕組みでもあります。
ただし、外部サービスを利用すれば必ず生産性が向上するわけではありません。委託先との調整に費用がかかったり、業務の知識が社内に蓄積されにくくなったりする場合もあります。外注化の効果は、委託する仕事の性質や、企業が委託先を管理する能力によって変わります。
公共サービスは、政府支出を通じて支えられている
教育、医療、社会保障などの公共性の高いサービスは、政府支出や社会保障制度と深く結びついています。2000年の産業連関表では、政府消費の対象として教育・医療・福祉が大きな役割を果たしていました。
公共サービスは、企業向けサービスのように企業のコスト削減を直接の目的として発展するわけではありません。学校教育や医療、福祉は、人々が生活し、働き、社会に参加するための条件を整えるものです。市場で十分な利益を確保できるかどうかだけでは、必要なサービスの供給量を決められない分野でもあります。
例えば、地域に病院や介護施設がなければ、住民は必要な医療や支援を受けるために遠くまで移動しなければならないかもしれません。人口が少ない地域では、民間企業だけに任せると採算が合わず、サービスが維持しにくくなる場合もあります。公共サービスへの支出は、こうした問題に対応し、必要なサービスへのアクセスを支える役割を持っています。
このように、サービス産業の需要は、家計の購買力だけで決まるわけではありません。企業活動による需要、政府の支出、社会保障制度、設備投資など、複数の仕組みによって支えられています。
3. サービス産業の設備投資は、製造業や建設業にも仕事を生み出す
サービス業は、建物や機械を購入する大きな投資主体でもある
サービス産業は、知識や人の働きによって価値を生み出すため、製造業に比べて原材料や部品の投入が少ないと思われがちです。確かに、サービスの内容によっては、物理的な材料を大量に使う必要がありません。しかし、サービスを提供するためには、建物、設備、機器、情報システムなどが必要です。
病院は医療機器を導入し、学校は校舎や教育設備を整備し、ホテルは建物や厨房設備を維持します。情報サービス企業はコンピューターや通信設備を購入し、物品賃貸業は貸し出す機械や設備を取得します。こうした設備への支出は、サービス産業自身の投資であると同時に、機械メーカーや建設会社にとっての売上になります。
2000年の固定資本マトリックスによると、住宅建設と社会資本形成を除いた全産業の固定資本形成額は約97.97兆円でした。そのうち、サービス業の固定資本形成額は約26.81兆円で、全産業の約27.4%を占めていました。当時の国内総生産に占めるサービス業の割合は約24.8%だったため、設備投資という観点では、サービス産業の存在感は生産額の比率よりも大きかったことになります。
この数字は、サービス産業が単に人を雇い、サービスを販売するだけの産業ではないことを示しています。サービスを提供するための投資が、他の産業に対する重要な需要となっていたのです。
医療・教育・福祉の施設整備は、機器産業や建設業を支える
サービス業の投資内容は、業種によって大きく異なります。医療保健では医療機器などの購入が重要です。教育や福祉・介護では、施設や建物の整備が大きな比重を占めます。情報サービスや広告では、機器の購入に加えて、受注ソフトウェアへの支出も重要になります。
この違いは、サービス産業の成長が、どのような産業に需要をもたらすかを左右します。病院が設備を更新すれば、医療機器や関連設備のメーカーに注文が入ります。介護施設や学校を新設すれば、建設業や設備工事の仕事が生まれます。企業が情報システムを導入すれば、コンピューターなどの機器だけでなく、ソフトウェアの開発や保守にも需要が発生します。
2000年の固定資本形成を分析すると、サービス業全体の投資のうち、約半分が機器産業への需要、約28%が建設業への需要となっていました。つまり、サービス産業が行う投資は、自らの事業を拡大するだけでなく、機器や建物を供給する産業にも仕事を生み出していたのです。
サービス産業の投資が生み出す需要
医療・教育・福祉・企業向けサービスの投資
施設の整備、機器の導入、ソフトウェアの開発
機器産業
医療機器、コンピューター、設備などの需要
建設業
病院、学校、福祉施設などの建設・改修需要
雇用と地域経済への波及
設備の製造、施工、保守、運営などの仕事につながる
概念図。実際の波及効果は、投資内容、調達先、地域内での取引割合などによって変わります。
公共サービスへの投資は、消費だけでは見えない経済効果を持つ
公共サービスの価値は、利用者に直接提供される教育、医療、福祉などのサービスだけでは測れません。施設の整備や設備の導入によって、他の産業にも需要が生まれるからです。
例えば、地域に介護施設を建設すると、建設業の受注が増え、施設で使う設備や機器の需要も発生します。開設後には介護職員や看護職員などの雇用が生まれ、給食、清掃、洗濯、保守管理などの業務も必要になります。こうした支出は、地域の企業や労働者の所得にもつながります。
ただし、公共投資なら何でも同じ効果を持つわけではありません。施設を建てても利用者が少なかったり、必要な職員を確保できなかったりすれば、投資した資金を十分に生かせない可能性があります。また、設備を域外から調達すれば、需要の一部は地域外へ流れます。
したがって、公共サービスの投資効果を評価するには、建設費や設備購入額だけでなく、施設が長期にわたってどのように利用され、どのようなサービスを提供し、どれだけ地域の生活や雇用を支えるのかを見る必要があります。公共サービスへの投資は、単なる建設需要ではなく、地域が必要とする機能を維持するための投資として考えることが重要です。
4. 企業の外注化は、日本経済の仕事の配置を変えた
社内の仕事が、専門サービス企業へ移る
1990年代以降、企業はグローバル化による競争圧力のなかで、費用を抑えながら事業を続けることを求められました。そのため、製造や販売の中心業務に経営資源を集中させ、それ以外の業務を外部の専門企業に委託する動きが進みました。
外注化の対象となったのは、清掃、警備、設備保守、情報システム、設計、調査、会計、人材管理など多様な業務です。こうした仕事は、従来、製造業や商業などの企業内部で行われていた場合があります。外部委託が進むと、業務を担当する人の雇用主が変わり、産業統計上も、製造業などからサービス産業へ就業者が移ったように表れることがあります。
2000年の産業連関表を使い、日本と米国におけるサービス投入比率を比較すると、米国では1990年の約9.1%から2000年には約11.7%へ上昇しました。日本でも約8.2%から約9.7%へ上昇しています。サービス投入比率とは、各産業の国内生産額に対して、サービス産業から購入したサービスがどれほどの割合を占めるかを示す指標です。
米国のほうが外部サービスの利用度は高かったものの、日本でもサービスの外注化が進んでいたことが読み取れます。製造業が縮小する一方でサービス産業が拡大する現象の一部は、経済活動が完全に別のものへ置き換わったというより、企業内の業務が外部の専門企業へ移った結果でもあったのです。
専門職や技術職も、サービス企業に所属するようになった
外注化は、清掃や警備のような仕事だけでなく、専門的な知識や技能を必要とする仕事にも及びました。建築技術者、土木技術者、情報技術者、製図工などのなかには、製造業や建設業などの企業に所属していた人が、専門サービス企業で働くようになったケースがあります。
1975年から2000年までの職業別・産業別の構成を比較すると、建築技術者のうち対事業所サービスで働く人の割合は約11.6%から約32.1%へ、土木技術者では約11.1%から約27.9%へ上昇しました。情報技術者では約21.5%から約66.9%へ高まっています。清掃員や製図工などでも、対事業所サービスに所属する割合が上昇しました。
これらの変化は、仕事そのものが消滅したことを意味しません。専門企業が仕事をまとめて請け負うことで、企業内に分散していた業務が、独立したサービス産業として組織されるようになったことを示しています。
外部委託には、専門的な人材や技術を複数の企業で共有できる利点があります。すべての企業が個別に専門家を雇う必要がなくなり、サービス企業が技能や設備を蓄積することで、効率的に仕事を提供できる可能性もあります。
一方、仕事を委託する企業が価格を厳しく抑えようとすれば、受注企業の収益が圧迫され、賃金や雇用条件に影響が及ぶことがあります。外注化によって専門性が高まる場合もあれば、コスト削減を優先するあまり、働く人の安定が損なわれる場合もあるのです。
海外への業務委託は、専門職の雇用にも影響する
2000年代初頭には、米国で研究開発、設計、会計、コンサルティング、ソフトウェア開発などの専門的サービスを海外から調達する動きが注目されました。こうした海外への外注化は、オフショア・アウトソーシングと呼ばれます。
通信技術の発展によって、物理的に離れた場所にいる人々が、設計やプログラミング、調査などの仕事を共同で進めやすくなりました。企業にとっては、海外の人材や専門企業を利用することで、コストを削減できる可能性があります。しかし、国内の専門職や技術職にとっては、仕事の一部が海外へ移り、雇用や賃金が圧迫される懸念もありました。
この問題は、工場の海外移転だけでは捉えられません。製造工程に加えて、設計、ソフトウェア開発、会計、調査などの知識集約的な仕事も、国境を越えて分業できるようになっていたからです。
ただし、海外委託が常に国内の雇用を減らすとは限りません。外部サービスを利用することで企業の競争力が高まり、別の分野の仕事が増える可能性もあります。影響は、どの業務を海外へ移すのか、国内企業がどのような専門能力を維持するのか、労働者が新しい技能を身につけられるかによって変わります。
重要なのは、サービス産業の拡大を単純に「国内の雇用が増えた」と評価しないことです。企業の生産活動がどこで行われ、誰が仕事を担い、その成果や所得がどこに帰属するのかまで考える必要があります。
5. 1990年代後半以降、サービス産業の内部でも明暗が分かれた
生活関連サービスと余暇関連サービスは停滞した
サービス産業の成長を分析する際には、産業全体の数字だけでなく、業種別の動きを見ることが重要です。1990年代後半から2000年代前半にかけて、日本経済は長期不況の影響を受け、家計消費も伸び悩みました。その影響は、生活関連サービスや余暇関連サービスに表れています。
1996年から2004年までの民営サービス業の従業者数を比較すると、生活関連サービスは約179万人から約175万人へ、余暇関連サービスは約267万人から約243万人へ減少しました。生活関連サービスには洗濯、理美容、浴場、冠婚葬祭などが含まれ、余暇関連サービスには宿泊、娯楽施設、スポーツ施設、個人教授所などが含まれます。
こうした分野では、家計の支出が伸び悩むと、利用回数の減少や単価の引き下げが起こりやすくなります。日常生活に必要なサービスであっても、価格競争や消費者の節約志向によって売上が圧迫されることがあります。旅行や娯楽など、利用を先送りできるサービスでは、景気の影響がより大きくなる場合もあります。
ただし、すべての業種が同じ動きをしたわけではありません。美容業や個人教授所など、一部には成長が見られました。個人教授所のなかでは、語学や健康・スポーツに関連する分野が伸びていました。フィットネスクラブの売上高も、1998年の約2,940億円から2005年には約3,860億円へ増加しています。
これは、消費が停滞するなかでも、人々が何に価値を感じ、どのようなサービスに支出するかは一様ではなかったことを示しています。生活関連サービスや余暇関連サービスを一括りにしてしまうと、社会のニーズが変化するなかで伸びた分野と、縮小した分野の違いが見えにくくなります。
婚礼と葬儀の対照に、人口構造の変化が表れた
人口構造の変化は、サービス産業の業績にも影響します。象徴的なのが、結婚式場業と葬儀業の対照です。当時の統計では、結婚式場業の売上高は1996年の約1.34兆円から2005年には約0.89兆円へ減少しました。一方、葬儀業の売上高は1986年の約3,300億円から2005年には約8,000億円へ増加していました。
結婚式場業の縮小には、若年人口の減少や婚礼のあり方の変化などが関係していました。葬儀業の拡大には、高齢者人口の増加が影響していたと考えられます。つまり、人口構造が変わると、生活に関係するサービスへの需要も変わります。
この対照は、サービス産業の将来を考えるうえで重要です。人口が減るからといって、あらゆるサービス需要が同じ割合で減るわけではありません。年齢構成、世帯構成、生活習慣、価値観の変化によって、縮小する市場と拡大する市場が同時に生まれます。
もっとも、葬儀業の売上増加を、社会全体の豊かさの向上と直接結びつけることはできません。人口構造の変化が市場規模を押し上げる場合もあれば、消費者の選択やサービス提供方法の変化が業績に影響する場合もあります。業種の成長を評価するには、売上高だけでなく、需要の背景やサービスの内容も見る必要があります。
対事業所サービスは伸びたが、成長は一部の業種に集中した
企業向けサービスは、生活関連・余暇関連サービスに比べて従業者数を増やしていました。1996年から2004年にかけて、対事業所サービスの従業者数は約488万人から約553万人へ、約65万人増加しました。
ただし、この増加はすべての業種に広がっていたわけではありません。特に伸びたのは情報サービス・調査と、その他の事業サービスでした。情報サービス・調査の従業者数は約66万人から約92万人へ増加し、その他の事業サービスは約166万人から約225万人へ増えました。一方、機械修理や専門サービスはおおむね横ばいで、放送、広告、自動車整備、物品・機器賃貸などには減少した業種もありました。
その他の事業サービスのなかでも、派遣・請負などを含む「他に分類されない事業サービス」が大きく伸びました。1996年には約58万人だった従業者数が、2004年には約110万人となっています。
この成長には、企業が業務を外部委託する動きが影響していました。しかし、同じ「企業向けサービスの成長」でも、専門的な知識や技術を提供する業種と、人材派遣や業務請負などによって人手を供給する業種では、その性格が異なります。
コンサルタント、通訳・翻訳、コピーライターなどの専門サービスは、資格や知識、技術を基盤として、小規模な事業者でも成立し得る分野です。これらは、専門性を生かして企業活動を支えるサービスといえます。一方、派遣や請負の拡大は、企業の雇用の仕組みが変わっていることを反映していました。
企業向けサービスが成長しているという事実だけでは、その成長が技術力の向上によるものなのか、仕事の外部化によるものなのか、あるいは雇用形態の変化によるものなのかを判断できません。産業の実態を知るには、どの業種がどのようなサービスを提供しているのかを確かめる必要があります。
6. 売上高と従業者数を比較すると、サービス産業の問題が見えてくる
人が増えても、売上が増えるとは限らない
サービス産業の動向を把握するには、従業者数だけでなく、売上高も見る必要があります。仕事に従事する人が増えていても、売上高が減っている場合があります。逆に、売上高が伸びていても、従業者数がそれほど増えない場合もあります。
1999年から2004年までの民営サービス業の売上高を比較すると、生活関連サービスでは、美容業など一部の業種を除き、売上高が減少する分野が目立ちました。余暇関連サービスでも、パチンコ店や公園・遊園地などを除く多くの業種で売上高が減少していました。
対事業所サービスでは、派遣・請負などを含む「他に分類されない事業サービス」の売上高が、約6.88兆円から約8.16兆円へ増加しました。これは、同分野で従業者数が増えたこととも対応しています。一方、専門サービスの売上高は約15.96兆円から約13.08兆円へ、約2割減少しましたが、従業者数はおおむね維持されていました。
こうした違いは、売上高と雇用の関係が単純ではないことを示しています。売上が減っても、自営業者や小規模事業者が仕事を続けることで、従業者数がすぐには減らない場合があります。また、パートやアルバイトの比率が高い業種では、雇用人数が増えても、労働時間や一人当たりの所得が同じように増えるとは限りません。
したがって、雇用者数の増加をそのまま事業の成長や労働者の所得向上とみなすことはできません。売上高、雇用人数、労働時間、賃金、契約形態などを組み合わせて見ることが重要です。
自営業や小規模事業者が、雇用を支える場合もある
サービス産業には、比較的小規模な事業者や自営業者が多い分野があります。専門資格や経験、個人の技能を基盤にして仕事を続けられる場合、企業規模が小さくてもサービスを提供できます。こうした事業者は、売上高が減少しても、事業を続けることで雇用や仕事を維持することがあります。
例えば、専門的な知識を生かす事務所や個人事業では、売上が減ったとしても、事業主自身が働き続けることで従業者数が維持される場合があります。一方、従業員を多数雇う企業では、売上の減少が人員削減や労働時間の縮小につながる可能性があります。
ただし、自営業や小規模事業者が多いことは、必ずしも安定した雇用を意味しません。仕事を維持できたとしても、所得が減ったり、社会保険や老後への備えを自分で負担しなければならなかったりすることがあります。雇用統計の数字だけでは、働く人の生活の安定度までは十分に把握できません。
この点は、サービス産業を雇用の受け皿として評価するときの重要な論点です。仕事が存在することと、安定した所得を得られることは別の問題です。自営業者や小規模事業者の役割を認めながらも、所得の安定、社会保障、事業継続の条件を検討する必要があります。
情報サービスは、他のサービスとは異なる成長を示した
1999年から2004年にかけてのサービス業基本調査では、情報サービス業や放送業、映画制作・配給業の一部が調査対象から外れていました。これらは産業分類の変更により「情報通信業」へ移されたためです。そのため、旧分類のサービス業全体の売上高を比較する際には、別の統計も参照する必要がありました。
経済産業省の特定サービス産業実態調査によると、情報サービス業の売上高は1999年の約10.15兆円から2004年には約14.53兆円へ増加しました。増加率は約43%です。映画制作・配給業の売上高も、1998年の約5,050億円から2004年には約5,630億円へ増加しました。
この動きは、サービス産業のなかでも、情報技術やデジタル化に関連する分野が異なる展開を見せていたことを示しています。情報システムの開発や運用は、企業の外注化を受け止めるとともに、企業活動そのもののデジタル化によって需要を拡大させていました。
ただし、統計を比較する際には、産業分類の変更に注意する必要があります。分類が変わると、ある年には「サービス業」に含まれていた業種が、別の年には「情報通信業」などに分類されることがあります。そのまま数字を比較すると、実際には産業の境界が変わっただけなのに、業種が急減したように見えることもあります。
産業構造の長期的な変化を分析するには、統計の分類や調査対象の違いを確認し、比較可能な形にそろえることが欠かせません。
7. 医療・福祉の拡大と、サービス産業における雇用の二極化
医療・福祉は、長期不況のなかでも雇用を増やした
民営サービス業の統計だけを見ていると、サービス産業全体の姿を見誤る可能性があります。教育、医療、福祉などには、国や自治体などが運営する事業所も含まれるためです。公共サービスを含めた就業者数を見ると、当時の産業構造の変化がよりはっきりと表れます。
1998年から2004年にかけて、医療・福祉部門の就業者数は約442万人から約531万人へ増加し、約89万人の増加となりました。高齢化の進展とともに、医療や介護などのサービス需要が拡大していたことが背景にあります。
同じ時期に、教育・学習支援業の就業者数は約290万人から約284万人へとわずかに減少しました。一方、情報通信業や複合サービス業などには増加が見られました。サービス産業全体の就業者数が増えていても、すべての分野が同じように成長していたわけではありません。
医療・福祉の雇用増加は、企業の外注化とは異なる仕組みから生まれています。企業向けサービスでは、既存の仕事が外部委託されることで、仕事を担う企業や産業が変わる場合があります。医療・福祉では、高齢者の増加や社会的な支援ニーズの拡大によって、サービスそのものへの需要が増えていました。
この違いは、今後の雇用政策を考えるうえでも重要です。企業の効率化によって仕事の所属先が変わる場合と、人口構造の変化によって新たなサービス需要が生まれる場合とでは、必要な人材、技能、教育、財源のあり方が異なります。
介護の需要が増えても、雇用の安定が自動的に実現するわけではない
医療・福祉の拡大は、社会に必要な仕事が増えたことを示しています。しかし、需要が拡大することと、働く人が安定した条件で働けることは別です。
介護の仕事では、利用者の身体状況や生活環境に応じて支援を調整する必要があります。単純に作業時間を短くするだけでは、本人の安全や尊厳を損なうおそれがあります。必要なサービスの質を維持するためには、十分な人員、適切な教育、職員の経験を生かせる職場環境が重要です。
一方、介護サービスの提供には人件費が大きく関わるため、事業者の収入や公的な報酬制度が雇用条件に影響します。サービス需要が増加しても、報酬や財源が十分でなければ、賃金の引き上げや職員の確保が難しくなる可能性があります。
そのため、医療・福祉の雇用拡大を評価する際には、就業者数だけでなく、仕事の専門性、労働条件、サービスの質、地域ごとの人材確保の状況まで見る必要があります。社会的に不可欠な仕事が増えることを、働く人の生活の安定にもつなげることが課題となります。
派遣・請負の拡大は、サービス産業の成長と雇用の不安定化を同時に示した
2000年代初頭には、ビルメンテナンス、警備、人材派遣、業務請負などを含む事業サービスが大きく拡大しました。製造業などの企業がコスト削減を進め、製造現場の作業員についても請負会社などを利用する動きが広がっていたためです。
当時の統計では、その他の事業サービスの就業者数が増加していました。そのなかには、臨時・日雇の労働者も多く含まれていました。製造業の事業所で働く人が減る一方、仕事の一部を請け負うサービス企業の従業者が増えるという変化が起きていたのです。
ここには、サービス産業の成長が持つ二つの側面があります。一つは、専門企業が仕事を引き受けることで、企業が必要な機能を効率的に利用できるようになることです。もう一つは、仕事の委託先や契約形態が変わることで、働く人の雇用の安定性が損なわれる可能性があることです。
産業統計上は、サービス業の就業者が増加していても、その背景には、製造業などの企業が従来担っていた仕事を外部へ移したという事情が含まれていました。したがって、サービス産業の雇用増加をそのまま純粋な雇用創出とみなすことはできません。
8. サービス産業の発展を、日本経済の再生につなげるには
産業構造の変化を、単なる「製造業からサービス業への移行」と考えない
1990年代から2000年代前半にかけての日本経済では、製造業の雇用が減少する一方、企業向けサービスや医療・福祉などの雇用が拡大しました。この変化を表面的に見れば、製造業中心の経済からサービス産業中心の経済へ移行したと説明できます。
しかし、実際の変化はもっと複雑です。企業向けサービスの拡大には、企業内部の仕事が外部へ移る動きが含まれていました。医療・福祉の拡大には、高齢化によるサービス需要の増加が関わっていました。情報サービスの成長には、企業活動の情報化と専門的な業務の外注化が影響していました。生活関連・余暇関連サービスでは、家計消費の停滞によって雇用や売上が減少する分野もありました。
つまり、サービス産業の成長は、異なる原因から生まれた複数の変化が重なった結果だったのです。そのため、サービス産業を育成すれば、製造業の雇用減少や長期不況の問題が自動的に解決するわけではありません。
必要なのは、サービス産業が他の産業とどのようにつながり、どのような需要を生み出し、働く人の生活にどのような影響を与えているのかを把握することです。
企業向けサービスの高度化と、働く人の能力形成
企業向けサービスのなかには、情報技術、設計、調査、専門的な助言など、高度な知識や技能を必要とする仕事があります。こうした分野は、企業が自社だけでは持ちにくい専門能力を利用できるようにし、産業全体の生産性や競争力を支える可能性があります。
ただし、高度なサービスを育成するためには、専門的な人材を育て、知識や技術を蓄積できる環境が必要です。単に外注化を進め、費用を削減するだけでは、国内に専門能力が蓄積されない可能性もあります。
例えば、企業が設計やソフトウェア開発を外部に委託するとき、委託先が技術を磨き、経験を蓄積し、より高度なサービスを提供できるようになれば、企業間の分業は経済全体の能力向上につながります。一方、価格の安さだけで委託先を選び、短期的なコスト削減を優先すれば、技能の蓄積や人材育成が後回しになるおそれがあります。
サービス産業を成長させるには、仕事を外部に移すこと自体ではなく、専門性を高め、付加価値を生み出し、そこで働く人が技能を磨ける仕組みを整えることが重要です。
公共サービスの充実を、生活基盤と経済基盤の両面から考える
医療、福祉、教育などの公共性の高いサービスは、人々の生活を支えるだけでなく、雇用を生み出し、他産業に需要をもたらす役割も持っています。施設の整備は建設業や機器産業に需要を生み、サービスの運営は継続的な雇用につながります。
また、必要な医療や介護、保育などを利用できることは、家族が働き続けるための条件にもなります。介護や子育ての負担が家庭に集中すると、家族の誰かが仕事を辞めたり、労働時間を減らしたりせざるを得ない場合があります。必要なサービスが地域に整っていれば、本人や家族の生活を支え、労働参加を維持することにもつながります。
もちろん、公共サービスの拡充には財源が必要です。どのサービスを、どの地域で、どのような方法で提供するかについては、利用者のニーズや財政状況、担い手の確保を踏まえて考える必要があります。それでも、公共サービスを単なる支出として扱い、その経済的な役割を見落としてしまうと、社会が必要とする機能を維持できなくなる可能性があります。
公共サービスへの投資は、短期的な雇用対策にとどまりません。人々が安心して暮らし、働き、学ぶための基盤を整えることは、地域経済と日本経済の持続可能性を支える取り組みでもあります。
9. 歴史的な意味――サービス産業は、日本経済の弱点と可能性を映し出した
仕事の数だけでなく、仕事の中身を見る必要がある
2000年代初頭の日本経済では、サービス産業が大きな雇用の受け皿になりつつありました。企業向けサービスは外注化によって拡大し、医療・福祉は高齢化による需要の増加を背景に成長しました。サービス産業の設備投資は機器産業や建設業に需要を生み出し、企業向けサービスは他産業の生産活動を支える機能を担っていました。
しかし、その内側では、業種ごとの明暗が分かれていました。情報サービスや派遣・請負などが成長する一方、生活関連サービスや余暇関連サービスには停滞する分野がありました。売上高が減少しても雇用が維持される業種がある一方、雇用が増えても不安定な働き方が広がる場合もありました。
このことは、サービス産業の発展を評価するうえで、単に就業者数や売上高を見るだけでは不十分であることを示しています。仕事が増えているのか、どのような技能が必要なのか、賃金や雇用条件はどうなっているのか、社会に必要なサービスが十分に供給されているのか。こうした点を合わせて考えなければ、産業構造の変化が社会にもたらす影響を正しく理解できません。
サービス産業を、生活と生産の双方を支える基盤として捉える
サービス産業は、製造業に代わる単なる雇用の受け皿ではありません。企業が生産活動を続けるための専門機能を提供し、設備投資を通じて他産業に需要を生み出し、医療・福祉・教育などを通じて人々の生活を支えています。
その一方で、外注化による雇用の再編や、非正規雇用の拡大、業種間の賃金格差などの課題も抱えていました。サービス産業が成長しても、働く人の生活が安定するとは限りません。社会に必要な仕事が増えても、その仕事を継続できる条件が整っていなければ、担い手を確保することは難しくなります。
したがって、サービス産業の発展を考える際には、企業の競争力、雇用の安定、公共サービスの供給、地域経済の持続性を相互に関連づけて考える必要があります。専門性の高いサービスを育てることと、社会に不可欠なサービスを維持することは、対立する課題ではありません。どちらも、経済活動と人々の生活を支えるために重要です。
この時期の日本経済が示した教訓は、産業構造の変化を、成長産業の入れ替わりだけで捉えてはならないということです。産業がどのようにつながり、仕事が誰によって担われ、その成果が誰に届くのか。そこまで視野を広げることで、サービス産業の成長が持つ可能性と限界が見えてきます。
サービス産業は、経済の「周辺」にある補助的な産業ではありません。製造業を含む企業活動を支え、生活に欠かせないサービスを提供し、投資と雇用を生み出す、日本経済の中核的な基盤の一つです。その発展を社会全体の豊かさにつなげるには、成長の規模だけでなく、サービスの質、働く人の生活、公共性、地域への波及効果まで考えることが欠かせません。
